投稿内容へ

【読書メモ】『国家はなぜ衰退するのか? 上』 経済・政治の制度設計が国家の命運を分ける?

Posted on:January 4, 2025 at 12:00 AM

reading-notes-why-nations-fall-cover

2024年のノーベル経済学賞受賞者、ダロン・アセモグルとジェイムズ・ロビンソンによる『国家はなぜ衰退するのか?』の上巻を読んだ。

amzn.asia
amzn.asia favicon https://amzn.asia/d/b7lK4uv

全体の感想

国家の盛衰を決めるのは、地理でも、文化でもない。その国家の採用する経済制度・政治制度なのだ。これが、本書を貫く主張だ。そして、この主張を裏付けるために歴史を振り返り、歴史上のあまたの国家の盛衰をたどり、その原因を探っていく。主張は明快で、取り上げる事例も詳しく説明されているので、理解しやすい内容にはなっている。個人的には、教科書的な世界史で得た知識が一つの視点で統一的に結び付けられる過程が気持ちよかった。例えば、ジョン・ケイの飛び杼やジェニー紡績機が産業革命に果たした役割や、清教徒革命や名誉革命がその後のイギリスの発展に与えた影響など、世界史の授業では用語に過ぎなかった事実が、「政治・経済制度が国家の発展に果たした役割」という一貫した視点で結び付けられていく。

日本の明治維新からの飛躍的な発展は、著者らの主張の裏付けとしてはとりわけ合致したものだろう。薩摩、長州、土佐藩など多様な利害関係を持ったグループが団結し、絶対制を敷いていた幕府を倒す。そして「包括的な」政治・経済制度を取り入れることで見事に国家として発展を遂げ、絶対制を敷いていた大国ロシアを打ち破るまでに成長する。

政治・経済制度に着目する著者らの理論は、これまでの歴史における国家の盛衰の多くをうまく説明できるように思われる(特に、地理説や文化説に比べれば)。とはいえ、現代の国家間の状況をどこまで説明できるのか、についてはまだ疑問も残る。現代において、民主主義を採用して経済を開放すればそれで国家が発展するのだろうか?それとも、グローバリズムの波にのまれて「先進国」の工場として使われるだけ、という状態になるのだろうか。下巻も読んでから考えよう。

メモ

制度の違いがアジア各国の命運を分けた

一度発展した絶対主義国家は、なぜ衰退するのか?

事例:ソヴィエト連邦

絶対主義国家は、なぜ一時的に成長するのか?

事例:クパ王国

イングランドは、なぜ包括的政治・経済制度をいち早く確立することができたのか?

衰退する国家と繁栄する国家を分けたもの:ヨーロッパの場合

衰退した国家

「農奴の話は枚挙にいとまがない。男も女も家族や村から引き離されて売り飛ばされ、賭けに負け、数匹の猟犬と引き換えにされ、ロシアの辺境に送り込まれた……子供たちは親から取り上げられ、残酷な、もしくは放埓な主人に売り飛ばされた。「家畜小屋」での聞いたことがないほど残酷な鞭打ちの罰は日常茶飯事だ。苦しみから逃れる唯一の道として入水自殺を選んだ少女もいた。主人に仕えて老いさらばえ、ついに主人の屋敷の窓の下で首をつった老人もいた。農奴が反乱を起こしても、ニコライ一世の将軍が鎮圧した。それぞれの集団から、5人に一人、十人に一人、というように犠牲者を選び出しては死ぬまで鞭で打ったり、村を破壊したりしたのだ……いくつか村を回って、貧困を目の当たりにした。特に、かつて貴族だった人々の悲惨さは筆舌に尽くしがたい。」 ーークロポトキン